辺り一面、霞むような満開の桜。華やかでありながらどこか物悲しい、大昔からの日本の原風景とも思うような光景が、実は明治以降に出来た比較的新しいものなのだとしたら。
『桜が創った日本』(佐藤俊樹著 岩波新書 税込¥777)はちょっと「え??」って気分になる内容の本です。(俯瞰の視点でありながらとてもヒューマンな文であり読みやすく楽しい。皆さまよろしければ御一読のほどを。)
葉より先に花が樹を覆い、一面の桜色を創りだす。その品種はソメイヨシノ。私達にとって桜のイメージといえばソメイヨシノといっても言い過ぎではありません。実際に現在、日本に植えられている桜の約8割はソメイヨシノとの事。少し前に言われていた「生命は遺伝子の方舟」とすれば最も成功した桜なのでしょう。
さて、そのソメイヨシノは自家不和合性(自らの花粉では種をつけない。)で挿し木、もしくは継ぎ木で日本全国に広がっていきました。お茶について知っている人ならこの辺りで「ん???なんかあの品種似ているな。」となってきます。そう。「ヤブキタ」のようです。(茶も自家不和合性であるから主に挿し木で増やされます。)静岡においては9割、全国では約8割を占める茶品種。つまり、皆さんが口にするお茶の味といえば「ヤブキタ」もしくは「ヤブキタ」をベースにしたブレンドです。ヤブキタは「温和でありながら豊かな味わい」が特長です。時折、「ヤブキタは個性が無くて」なんて言われますが、品種をみていくとここまで多くの人に受け入れられやすい味、香りのお茶はちょっとありません。つまり、その意味でこんなに特長のあるお茶は無いともいえます。 |